東京大学 情報理工学系研究科 数理情報学専攻 合格体験記

タイトルにあるように、東京大学情報理工学系研究科の数理情報学専攻の2022年度夏院試に合格しました。この記事には、自分の記録用に、そして来年以降同専攻を受験する人のために、院試の対策期間から合格発表まで、自分がどのような道程を辿ったかを記します。

1行でまとめると

共通数学で大失敗しても受かった。

はじめに

院試の選考過程は大部分がブラックボックスなので、どの要素がどれくらい合否に影響しているかはわかりません。以下に書いてある、各ステップの合否への影響などは、あくまで筆者の推測にすぎません。

この記事を院試対策の参考にする場合の注意点を2つ挙げます。

  • 筆者は内部生であること。
  • 試験の形式が例年と異なること。

まず1点目について。自分は東京大学工学部の計数工学科数理情報工学コースに所属している、いわゆる内部生です。数理情報学専攻に所属する先生がたの授業を受けてきました。そのため、院試に向けて押さえるべき事項はある程度分かっていましたし、授業資料や演習問題へのアクセスもありました。これは、特に口述試験において、外部生に比べて大きなアドバンテージになったと思います。

2点目について。今年の数理情報学専攻の入試は、2020年度以前(コロナ禍以前)とも、2021年度入試とも異なる形式で行われました。来年度以降、はたしてコロナ以前の形式に戻るのか、それとも現在の形式が引き継がれるのか、全くわかりません。

試験形式

今年度の数理情報学専攻の院試は、以下の5ステップで構成されていました。

  1. TOEFL iBT
  2. 書類選考
  3. レポート課題
  4. 共通数学(筆記)
  5. 口述試験

以下で、それぞれのステップについての解説と、自分がどのように対策し、どのような結果が出たかを詳述します。数理情報学専攻のホームページに、過去問や出願の手続き、勉強の指針などが掲載されているので、まずはそちらを参照すると良いと思います。 www.i.u-tokyo.ac.jp

TOEFL iBT

出願に際して、TOEFLスコアを提出することが求められます。コロナ禍以前は、大半の人が団体でTOEFL ITPを受験していましたが、今年は受験者が各々でTOEFL iBTを受験し、スコアを提出する必要がありました。スコアが正しく提出できているか確認できないので不安になりますが、書類に不備があった人には連絡が来たそうなので、おそらく心配しなくても大丈夫です。スコアはほとんど合否に関係ないともっぱらの噂です。

対策

自分は英語が好きで日頃から勉強していたので、リーディング・リスニング・スピーキングについては特に対策を行いませんでした。ライティングは、学科の友人と数日に一度時間を測って過去問を解き、互いに添削しあっていました。TOEFLのライティングは時間制限が厳しいので、この演習でだいぶ慣れることができました。ただ上で述べたように、そもそもTOEFLスコアが合否に関係があるかすら怪しいので、対策の優先順位は低めだと思います。

結果

R30/L29/S22/W28で合計109点でした。我ながらすごいです。

書類選考

出願のさいに提出された書類をもとに選考が行われます。今年は書類選考課題として、志望理由・研究テーマの記述と、数理情報学において重要な事項の説明をする課題が課されました。課題内容の詳細は上記のホームページを参照してください。

対策

言われたとおりに書きました。背伸びして理解の怪しい難しめのことを書いてしまいましたが、そんなことをするメリットはおそらく皆無です。自分がしっかり理解している事項を書いたほうが絶対に良いと思います。

書類選考で落とされている人も数人いるので、きちんと文献を引いて正確なことを書くように努めるべきです。逆に、それが正しくできていればまず落とされないと思います。

結果

無事通過しました。

レポート課題

2020年度以前は専門数学の試験がありましたが、コロナ禍の影響で2021年度はそれがなくなり、代わりにレポート課題が課されました。今年度は専門数学の試験を行おうと思えば行えた(じっさい、数理情報学専攻いがいの情報理工の専攻は行っていた)にもかかわらず、レポート課題が課されたことから、この形式を積極的に選択する理由があるのだと推測しています。2021年度のレポート問題は上記のホームページで公開されています。

対策

言われた通りに、数式・図表を多めに盛り込んだレポートを書きました。書類選考課題同様、書籍・論文を可能な限り参照して、正確に書けば問題ないと思います。自分は読みやすいレポートになるように文章の順番や図表の見せ方に気を使いましたが、それがどれくらい評価されたかはわかりません。レポート課題については、以下のnoteがとても参考になります。残念ながら、自分がこれを発見したのは提出後でした。このノートによれば、レポート課題はかなり配点が重いらしいので、十分時間をかけて納得のいくものを仕上げるべきです。

note.com

結果

そこそこ納得のいく出来のものが書けました。提出したあとから「あそこはこうしておけばよかった」と何度も思ったので、理想的には期限よりだいぶ前に完成させて、ブラッシュアップに時間を割けると良いと思います。

共通数学

情報理工学系研究科全体で行われる数学の筆記試験です。線形代数・解析・確率統計の3分野からそれぞれ大問1つずつ出題されます。昨年はコロナ禍の影響でこの試験も行われませんでしたが、今年は例年通り実行されました。オンライン受験者への配慮から、試験は大問1つずつに分けた形で行いました。これも過去問がホームページで公開されています。

対策

学科同期と週に1回過去問を解いて解説しあうゼミをしました。これがなかったら共通数学なんて対策する気が起きるわけもないので、ありがたかったです。問題の難易度じたいは高くなく、誘導も丁寧なので、冷静にやれば満点が十分狙えます。線形代数・確率統計は高校数学および大学1年生レベルのことがわかっていれば解くのに支障はないと思います。自分の場合、この2つは得意だったので、試験直前は微分方程式複素解析フーリエ解析など解析分野を扱った授業を重点的に復習していました。共通数学は過去問演習をして抜けているところを適宜復習するのが一番コスパが良いと感じます。

結果

大大大失敗でした。 普通にやれば満点を取れると思っていた線形代数で、ひどい勘違いをして大問をまるまる1つ吹っ飛ばしました。試験終了の鐘と同時に勘違いに気がついたときは、「血の気が引く」とはこういうことなんだな、と実感しました。全員が満点を取ってそうな試験で、その3分の1を失う。え、俺落ちるの? どうしよう。しかもあと2つ大問残ってる。顔面蒼白になりながら、なんとか自分を鼓舞して残りの大問2つは完答しました。帰り道で同じようにやらかした友人と落ちた場合の動きについて話し合ったのはいい思い出です(その友人も無事受かっていました)。

口述試験

共通数学の約20日後にオンライン口述試験が行われました。ここでは、『提出されたレポート課題解答や数理情報学の専門知識に関する』質問に回答します。

対策

レポートに引用した論文を全部読もうとしたのですが、そんなことをする時間も能力もありませんでした。高度な内容まで答えられなくとも減点はされないだろう、という言い訳のもと、これまでに受けた授業で、それら論文の前提知識になっているようなことをしっかり復習しました。また、自分のレポート課題を再読して、想定問答集を作って答えられるように勉強しました。終わったあとから考えると、やはり計数工学科の授業内容、およびホームページに記載されている「勉強の参考となる図書」の内容をしっかりと理解するのが一番重要だと思います。

結果

レポート課題に関する質問には7割程度、専門知識に関する質問は9割程度答えられました。前者では、「これは聞かれるだろうな」というようなことが順当に聞かれたのに答えられず、自分の準備不足を呪いました。少なくともレポートに書いた内容については隅から隅まで正しく説明できるように準備しておくべきです。後者については、共通数学の失敗もあってものすごく緊張していたので、冷静になればすぐ答えられるような命題の証明で詰まってしまったのが心残りです。

全体の感想

院試、マジでカス。自分の場合は7月から9月まで、なにをしていても院試への不安が頭の片隅に根を張ってました。選考過程がなにも見えないし、どの要素がどれくらい重いかもわからないし、助けてくれって感じでした。合格発表の直前、自分は髪を切ってもらってたんですが、不安すぎて美容師さんとほとんど話せなくて、「お疲れですか?」とか聞かれてました。今から疲れる予定です。

こんなカスな試験で落とされたらカスなので、無事受かってよかったです。共通数学以降、メンタルが不安定だった自分に「どうせ受かってる」「大問3つ中2つ取れてれば大丈夫だろ」と言ってくれた友人たち、そして通話で愚痴を聞いてくれた某友人に、感謝……。

院試受けるとき、先輩とかに「よっぽどのことがなければ受かるよ」みたいなことを言われると思います。個人的には、いやそれよっぽどのことが起きたら落ちるってことじゃん、ってずっと思ってました。自分のやらかしってよっぽどのことに感じちゃいますよね。周りの人が何言っても、拭えない不安は拭えません。もうそれは仕方ないので、完璧な出来で試験を終えるか、それができなければ合否に怯えて合格発表を待ちましょう。今回自分が発見した不安の紛らわせ方の一つは、それをより大きい不安で塗りつぶすことです。具体的にはホラゲです。合否へのドキドキとゲームへのドキドキが混ざってよくわからなくなるので、やってる間は不安を忘れられました。『Doki Doki Literature Club!』がおすすめです。あとは上にも書きましたが、だれか友人に感情を全部ぶちまけるといいです。少なくともその友人と話してるあいだは気が楽になりました。

質問や、もっと詳細に書いてほしいことがあったら、コメントか筆者のTwitter(@Focus_Sash)までお気軽にどうぞ。これから院試に挑む皆さんの幸運を祈ります。